情報公開制度の趣旨から考える情報提供
しがNPOセンター 代表理事
阿部圭宏
最近、滋賀県で次のようなことがあった。県は、当初予算を県政記者クラブ加盟社に対し、2月5日に予算案の説明をするが、解禁は2月10日に開催される議会運営委員会後だという要請をした。こうした暗黙のルールがあるにもかかわらず、NHKが4日に予算概要の報道をしたことで、県は5日にNHKに対し抗議文書を送った。一方、県議会は議会運営委員会で「県議会への説明前に報道したことはルール破りであり、看過できない」とNHKに説明を求めることにした。その後、県から説明を受けた議会は、NHKの招致を撤回したという流れである。
この件に対するマスコミ報道は、議会の報道のあり方を巡り、議会が権力を行使して報道関係者を呼び出すのは報道への介入につながり、報道の自由の重要性を理解していないとする識者の意見を掲載したり、滋賀県新聞通信放送十社会が県議会に抗議文を送るなど、報道の自由をめぐる議論を展開した。そうした結果、招致の撤回へとつながったと思われる。
報道の自由という視点は大切であるが、僕がここで問題にしたいのは、予算情報の提供のあり方についてである。
県の予算編成過程は、ホームページで公開されている。これを見ると、予算案の最終のものはわからないまでも、どのような予算が要求されているか、どういった事業に優先度が置かれているかなどが理解できる。すでに予算情報の提供は、こうした状態になっているものであるし、また、情報公開制度の趣旨からも、本来は予算案も積極的に市民に提供していく必要があると思われる。そもそも予算案を議員が最初に説明を受けないと、マスコミや市民に提供できないなどという考え方が実に古いのである。県行政と県議会との関係も市民を無視した統治の古い仕組みだと言える。
もう一つ、記者クラブという仕組み自体も行政とマスコミの癒着を生み出す要因になっている。予算案は、県が提供した情報に基づき記事にされるが、独自取材を加味した記事ではあるものの、予算全体の説明はどうしても行政側の視点で書かれることが多い。これでは、権力に対するチェック機能としてのマスコミの力が働かないようにも思われるのである。
行政が保有する文書である公文書は、公開が原則である。例えば、滋賀県のホームページを見ると、「県民の皆さんとのパートナーシップを重視し、県の保有する情報を県民の皆さんと共有してより開かれた県政を推進したいと考え情報公開条例を施行し」ていくとある。とかく、行政は情報を隠しがちと思われているが、少なくとも制度上は、市民との信頼関係を築くためにも積極的に情報公開していくという姿勢なのである。
こうした情報公開の仕組みは、1980年代に自治体が進めてきたもので、中央省庁が追随する形で現在の姿になっている。しかし、当初の制度では公開範囲は狭く、滋賀県の場合も、1988年4月に施行された公文書公開条例では、決裁の終わった文書だけが公開の対象であったが、2001年4月の改正により、意思形成過程文書にも一定の公開が認められるようになり、あわせて、会議の公開なども行われるようになった。
特に、予算編成過程や予算案など、市民生活に直接関係している行政情報は、速やかに提供していくことが、情報公開制度の根幹であると思われる。情報公開・情報提供というツールを使いながら、市民が行政や議会をチェックしていくことで、行政や議会にも緊張感が出るのだ。マスコミもそうした権力チェックの力としてもっと機能してほしいし、今回のことをきっかけに、行政による積極的な情報公開・情報提供が行われることと、行政・議会・マスコミの間にいい意味での緊張関係ができるようになればと思う。
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