大学のこれから

しがNPOセンター

2019年06月03日 09:05

           しがNPOセンター
                     代表理事 阿部 圭宏

 文部科学省の2018年度学校基本調査によると、大学(学部)の進学率は53.3%となっている。2009年度に初めて5割を超えた進学率は、ここ10年堅調に推移している。大学進学率が高いことにより、日本の高等教育の未来が、必ずしも輝いているとは言えない。

 最近の大学をめぐる状況をいくつか列挙する。

 まず、奨学金問題から。返済が必要な日本学生支援機構の奨学金を借りている学生は半数近くになるそうだ。就職すると、直ちに返済が始まり、返済が滞ると、厳しい取り立てが行われ、返済の滞納は社会問題化している。奨学金という名前を借りた教育ローンが学生に重くのしかかっている。

 なぜ、多くの学生が借りているかと言えば、国公立大学の授業料が上がっていることもその要因に挙げられよう。

一方で、国立大学は独立法人化されて、国からの運営交付金が毎年1%ずつカットされている。その影響は、教員数に影響を与えていて、退職者があっても補充せず、非正規教員を充てるということが行われている。大学の自治はどこにもなく、ますます文部科学省の支配が強まり、競争資金は一部の大学に集中し、地域人材を供給してきた地方国立大学は存亡の危機に晒されている。このような中で、防衛装備庁が2015年度から開始した「安全保障技術研究推進制度」による研究費に手を挙げる人たちが出てくるなどの問題が出ている。

 東京大学に関する話題もいくつかある。これまで東京大学の文系でもっとも難易度が高いとされてきたのが文科一類(法学部)であるが、今年は合格者の平均点が文科二類(経済学部)のほうが高かった。優秀な人材は官僚になってという時代ではないらしい。最近は、東大法学部を出ても、外資系企業に就職する人が多いそうだ。国のためより、手っ取り早く金でということでの文化二類志望だろうか。東大生の親の62.7%が年収950万円以上だという統計もあり、本人の能力に加え、恵まれた学習環境が進学に影響していることも間違いのない事実であり、ここにも格差は生まれている。

 しかし、東京大学は、イギリスの高等教育専門誌「THE(Times Higher Education)」が発表した2019年「THE世界大学ランキング」では、前回より順位を上げたものの42位で、京都大学は62位だった。アジアでは、中国の台頭が目立ち、日本の大学の大半は依然として衰退、あるいは静止状態と評価されている。

 日本の場合、教育を取り巻く環境は厳しい。高等教育に限らず、教育費の国庫負担は極端に低いため、個人の負担が大きい。福祉と同じで、教育も自己責任という感じが強く、社会で教育環境を整えるという発想にならない。リカレントも含めて教育に力を入れている国は、いろんな意味で将来性がある。増税があっても、教育という目に見える形でのサービス提供があれば、誰もが納得するはずだ。

 今後、日本の大学は少子化の影響を受けて、縮小していかざるを得ないが、将来を見据えたビジョンを誰が示せるのか。一人ひとりが真剣に考えないと本当に沈没する。


関連記事