討議・熟議の仕組みと参加・協働を考える
新年あけましておめでとうございます。引き続きのご愛顧よろしくお願いします。
しがNPOセンター 代表理事
阿部圭宏
かつてのコラムで、「合意形成を目指すための議論」 を取り上げたことがある。単純な多数決が民主主義の本義ではなく、議論を十分尽くす熟議の仕組みが必要ではないかという話である。今回はでは具体的に熟議を進める方法について考えてみたい。
日本における民主制は、代議制を起点に置いているが、国権の最高機関であるはずの国会では十分な議論が行われているとは言えないのが現状だ。市民の意見を聞く場としての公聴会は、採決に当たっての形式的なセレモニーで、意思決定に何ら影響を与えない。一方、行政府では、市民参加・協働などという発想もなく、審議会においても官僚が仕込んだシナリオ通りにコトは進められるのが一般的だ。パブリックコメント制度というものも行政手続法に基づき行われている。これは、国の行政機関が政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民から意見、情報を募集する手続であるが、意見を聞くだけで、政策に反映されることはまずない。協働についても同様である。市民参加や協働を進めることが市民とのチャンネルを広げ、コトについての深い議論が行われるという発想には至らないのだ。
自治体の場合は、さすがに、これほどひどくはない。市民参加は普通に行われている。例えば、審議会委員の一定割合は公募されていることが多くなっているし、パブリックコメントも多くの自治体が取り組んでいる。中には、ワークショップを使って市民の意見を聞いたり、常設型の住民投票の仕組みを持っているところもある。協働に関しても、意識されている自治体が多く、具体的に協働提案制度などに取り組んでいるケースもある。
こうした仕組みは、市民との議論の場をつくることにはある程度貢献しているが、現状を見る限り、市民参加や協働によって市民と行政との議論が行われているというにはまだ十分とは言えず、意思決定に直接反映するとなると、まだまだという感じは否めない。
議会基本条例を制定している地方議会(まだまだ数は少ない)では、議会報告会を地域で開催し、市民と議員との意見交換の場が持つことの重要性が認識されつつあるようにも思われる。
代議制と市民討議がうまく組み合わされることで、民主制が深化する。市民討議を進めることが、市民参加や協働をより良きものにする。
そのヒントは、篠原一編『討議デモクラシーの挑戦』(岩波書店、2012)に満載である。この中に紹介されている事例を3つ取り上げてみよう。
●討議型世論調査(DP)
150〜300人の無作為抽出された市民が1箇所に集まり、2泊3日で討議イベントが行われる。事前のアンケート結果が討議によりどうなったかの結果を分析し公表する。グループ討議での合意形成を行わないことが特徴である。
●計画細胞会議(プラヌーンクスツェレ)
解決が必要な課題を選定し、無作為抽出の25名での会議を最低4回実施する。1回の会議は4日間を標準とする。参加者のみでの小グループ討議を繰り返し、市民鑑定という報告書をまとめる。
●参加型予算
自治体の予算を市民集会により使い道を決めていこうとするものである。ブラジルのポルト・アレグレ市で始まり、南米やヨーロッパに広がっている。
こうした先進事例は、日本でも試行的に取り組まれている。DPは、神奈川県などでの実施例があり、計画細胞会議は、そのミニ版として各地のJCが取り組んだ市民討議会がある。参加型予算は、市川市の1%制度をはじめ、協働提案制度のような仕組みも一例と言えよう。
自治体が積極的に事例を積み上げることで、市民討議が活発になり、それに刺激を受けて代議制も機能する。閉塞状況に陥っている民主制の次代を切り開く画期となるだろう。
関連記事